【OCIとAWSを比較 】機能、コスト、メリットデメリットについて

MySQLを運用する企業にとって、クラウド環境の選択は今後の事業成長を左右する重要な決断といえます。Oracle Cloud Infrastructure(OCI)とAmazon Web Services(AWS)は、どちらも優れたクラウドプラットフォームとして多くの企業に利用されていますが、それぞれに特徴があります。本記事では、両者の機能面・コスト面での詳細な比較から、MySQL運用に最適な選択肢を見つけるための判断基準まで、実践的な情報をお届けします。

目次

Oracle Cloud Infrastructure(OCI)とは

Oracle Cloud Infrastructure(OCI)は、オラクル社が提供するエンタープライズ向けクラウドプラットフォームです。データベース分野で長年の実績を持つオラクルが設計したこのサービスは、高性能なコンピューティング、包括的なセキュリティ、そして既存のオンプレミス環境との高い親和性を特徴としています。

OCIの最大の特徴は、オラクルデータベースとの統合性にあります。MySQL HeatWaveをはじめとする高性能データベースサービスを提供し、既存のOracle Database環境からの移行を容易にする機能が充実している点で他のクラウドプロバイダーと差別化されています。

Amazon Web Services(AWS)とは

Amazon Web Services(AWS)は、クラウドコンピューティング市場におけるパイオニアとして2006年にサービスを開始した世界最大級のクラウドプラットフォームです。200以上のフル機能のサービスを提供し、グローバルで数百万の顧客に利用されています。

AWSの強みは、豊富なサービス群と成熟したエコシステムにあるといえます。Amazon RDS for MySQLやAmazon Auroraなど、MySQL運用に特化したマネージドサービスも充実しており、スタートアップから大企業まで幅広い規模の組織で採用されている実績があります。

AWSとOCIを選ぶ前に確認すべきポイント

クラウドプラットフォームの選択は、単純な機能比較だけでは判断できません。自社の現状と将来の展望を踏まえた総合的な検討が必要です。

クラウド選定で失敗しない3つの視点

クラウド選定において最も重要なのは、コスト・技術・運用の3つの視点から総合的に評価することです。初期導入コストだけでなく、運用開始後の月額費用や人的リソースのコストも含めて検討する必要があります。

技術面では、現在使用しているシステムとの互換性や、将来的な拡張性を慎重に評価することが大切です。既存のMySQLワークロードを最小限の変更で移行できるかどうかは、移行プロジェクトの成功を左右する重要な要素となります。

MySQL運用に最適なクラウドを見極める基準

MySQL運用においては、データベースのパフォーマンス、可用性、セキュリティが最優先事項となります。特に、レプリケーション機能の充実度や自動バックアップの信頼性は、本番環境での安定稼働に直結する要素です。

また、データベース管理者のスキルレベルと運用体制も考慮すべき重要な要素です。高度な設定が可能なプラットフォームでも、適切に運用できる人材がいなければ、そのメリットを活かすことはできません。

AWSとOCIの特徴・機能を比較

両プラットフォームの具体的な機能差を理解することで、自社のニーズに最適な選択が可能になります。

仮想マシン・ネットワーク構成の特徴を整理する

AWSのEC2インスタンスは、豊富な種類と柔軟な設定オプションを提供しています。Tシリーズのバースタブルインスタンスから、Cシリーズの高性能コンピューティング最適化インスタンスまで、ワークロードに応じた細かな選択が可能です。

一方、OCIの仮想マシンは、AMD EPYCプロセッサを採用した高性能インスタンスや、専用ハードウェアによるベアメタルインスタンスを特徴としています。OCIのコンピュートインスタンスは、同等性能でAWSより低価格で提供される場合が多いため、コスト重視の企業には魅力的な選択肢となります。

データベースサービスの拡張性と可用性を比較する

AWSのRDS for MySQLは、自動パッチ適用、自動バックアップ、ポイントインタイムリカバリなど、包括的な管理機能を提供しています。Amazon Auroraでは、最大15個のリードレプリカと高速な自動フェイルオーバー機能により、高可用性を確保できます。

OCIのMySQL HeatWaveは、OLTP(オンライントランザクション処理)とOLAP(オンライン分析処理)を単一のサービスで提供する独自のアーキテクチャが特徴です。リアルタイム分析が必要なワークロードにおいて、データの移動なしに高速なクエリ処理を実現できる点で優位性があります。

マネージドサービスの幅と使いやすさを見比べる

AWSは200以上のサービスを提供し、AI/ML、IoT、モバイルアプリケーション開発など、幅広い分野でマネージドサービスを利用できます。Amazon SageMakerやAWS Lambda、Amazon API Gatewayなど、現代的なアプリケーション開発に必要なサービスが充実しています。

OCIは、オラクルの企業向けソフトウェアとの統合に重点を置いたマネージドサービスを提供しています。Oracle Analytics CloudやOracle Integration Cloudなど、エンタープライズ環境での実績のあるソリューションをクラウドネイティブで利用できることが大きな魅力です。

セキュリティ・ガバナンスについて比較する

AWSは、世界中の顧客や業界標準に対応する堅牢なセキュリティ体制を備えており、IAM(Identity and Access Management)によるきめ細かいアクセス制御、組織単位でのポリシー管理、GuardDutyによる脅威検知、AWS Configによるコンプライアンス監視など、包括的なセキュリティとガバナンス機能が整備されています。クラウドセキュリティフレームワーク(CSF)やゼロトラストアーキテクチャにも対応可能で、多様な業界・規模の組織にフィットします。

一方、OCIも同様に、IAMベースのアクセス制御や、セキュリティゾーン、Vaultを利用した鍵管理、Oracle Cloud Guardによるセキュリティの自動検出・修復といった機能を提供しています。OCIの特徴は、Oracle Databaseのセキュリティ機能(Data Safe、Database Firewallなど)と連携した統合セキュリティ基盤を構築しやすい点にあります。また、一貫したセキュリティ設定を強制できるテンプレートベースの構成により、コンプライアンス重視の企業にとって扱いやすい設計となっています。

 

AWSとOCIの料金体系を比較

クラウドコストの最適化は、長期的な運用において極めて重要な課題です。両プラットフォームの料金体系を正確に理解することで、予算オーバーを防ぎ、効率的な運用が可能になります。

従量課金と予約インスタンスのコスト構造を確認する

AWSの従量課金モデルは、使用した分だけ支払う仕組みで、初期投資を抑えてスタートできる利点があります。Reserved InstancesやSavings Plansを活用することで、1年または3年契約により最大72%の割引を受けることが可能です。

OCIは、基本的にAWSより低価格で設定されており、同等の性能でもコストを抑えられる場合が多くあります。OCIのユニバーサルクレジットシステムでは、異なるサービス間でクレジットを柔軟に配分できるため、予算管理がしやすい特徴があります。

データ転送料金と隠れコストを洗い出す

AWSでは、データの送信(Outbound)に対して地域別の料金が設定されており、大量のデータ転送が発生するアプリケーションでは想定以上のコストになる可能性があります。特に、マルチリージョン構成やCDNとの連携時には、詳細な試算が必要です。

OCIは、同一リージョン内でのデータ転送を無料で提供し、リージョン間のデータ転送料金もAWSより安価に設定されています。また、オンプレミスとOCI間のVPN接続やFastConnectによる専用線接続時のデータ転送料金も競合他社より優位な価格設定となっています。

無料枠と試算ツールの使い方を理解する

AWSの無料利用枠は、新規ユーザーに対して12ヶ月間の期間限定無料枠と、永続的に利用できる常時無料枠を提供しています。EC2のt2.microインスタンスやRDSの20GBストレージなど、小規模な検証環境の構築には十分な内容です。

OCIのAlways Free Tierは、期間制限なしで利用できる無料枠を提供している点が特徴的です。Oracle Autonomous DatabaseやCompute VMなど、本格的な検証や小規模な本番環境でも活用できるレベルのリソースを永続的に無料で利用できます。

AWSとOCIのメリットとデメリット

両プラットフォームの長所と短所を客観的に理解することで、自社の要件に最適な選択が可能になります。

AWSの強みと制約を知る

AWSの最大の強みは、豊富なサービス群とグローバルなインフラストラクチャです。世界中に展開された可用性ゾーンとリージョンにより、グローバルビジネスに対応した高可用性システムの構築が可能です。

また、大規模なパートナーエコシステムとコミュニティの存在により、技術情報の入手や専門人材の確保が比較的容易な点も大きなメリットです。AWSの豊富な学習リソースと認定プログラムにより、社内のスキルアップも進めやすい環境が整っています。

一方で、サービスの多様性は同時に複雑性も生み出しており、最適な構成を見つけるための学習コストや、予期しない課金が発生するリスクもあります。特に、小規模なチームでは、全てのサービスを適切に管理することが困難になる場合もあります。

OCIの優位性と導入ハードルを理解する

OCIの優位性は、オラクルの長年にわたるエンタープライズ向けソフトウェア開発の知見が活かされたアーキテクチャにあります。特に、セキュリティとパフォーマンスの両面において、エンタープライズ要件を満たす高水準のサービスを提供しています。

コスト面でのメリットも顕著で、多くのケースでAWSよりも低価格でサービスを利用できます。また、オンプレミスのOracle Database環境からの移行において、ライセンスの流用や互換性の高さにより、移行コストを大幅に削減できる可能性があります。

導入ハードルとしては、AWSと比較してサービスの種類が限定的であることと、技術情報やコミュニティの規模が小さいことが挙げられます。新しいサービスであるため、実装事例や参考情報が少ない場合もあり、初期の学習コストが高くなる可能性があります。

用途別に適したクラウドを判断する

新規のWebアプリケーション開発やマイクロサービス化を進める場合には、AWSの豊富なマネージドサービスとコンテナ関連サービスを活用しやすく、短期間で開発環境を整えやすいというメリットがあります。特に、Amazon EKSやAWS Fargateを活用したコンテナ環境の構築や、Amazon API GatewayとLambdaを組み合わせたサーバーレスアーキテクチャの実装において優位性があります。

既存のOracle Database環境をクラウド化する場合や、データベース中心の業務システムをモダナイズする場合には、OCIの選択メリットが大きくなります。MySQL HeatWaveによるリアルタイム分析機能や、Exadata Cloud Serviceによる高性能データベース環境の構築が可能です。

MySQLをクラウドに移行するならどちらが適しているか

MySQL環境のクラウド移行においては、データベースサービスの性能と管理機能が選択の決め手となります。

HeatWaveとAuroraを技術視点で比較する

MySQL HeatWaveは、OLTPとOLAPを統合したユニークなアーキテクチャを採用しており、従来は別々のシステムで処理していたトランザクション処理と分析処理を単一のデータベースで実行できます。カラムナストレージとインメモリ処理により、分析クエリで100倍以上の高速化を実現するケースもあります。

出典:100x Acceleration on Analytics and Machine Learning with HeatWave – MySQL and HeatWave Summit 2024|MySQL YouTube公式チャンネル

Amazon Auroraは、MySQLとPostgreSQL互換のクラウドネイティブデータベースとして設計されており、標準MySQLと比較して最大5倍の性能向上を実現しています。Auroraの自動フェイルオーバー機能は30秒以内にマスター切り替えを完了し、高可用性要件の厳しいシステムに適している特徴があります。

PoC導入時の柔軟性とコスト感を確認する

AWSでは、RDS for MySQLの無料利用枠を活用して、20GBのSSDストレージとdb.t2.microインスタンスで750時間まで無料で検証環境を構築できます。また、AWS Database Migration Serviceを使用することで、既存のMySQLデータベースからの移行検証も効率的に実施できます。

OCIのAlways Free Tierでは、MySQL HeatWaveの一部機能がトライアル利用可で提供されており、長期間にわたる検証やプロトタイプ開発に適しています。特に、分析系ワークロードの検証において、HeatWaveの性能を実際に体験できる点は大きなメリットです。

マルチクラウド化に向いているかを見極める

マルチクラウド戦略を検討している企業にとって、ベンダーロックインの回避は重要な要素です。AWSの場合、豊富なマネージドサービスを活用するほど、AWS固有の機能に依存する傾向があります。

OCIは、オープンソースソフトウェアとオープンスタンダードを重視したアプローチを取っており、他のクラウドプラットフォームやオンプレミス環境との互換性を保ちやすい設計となっています。また、OCI FastConnect経由で他のクラウドプロバイダーとの接続も可能で、ハイブリッドクラウドやマルチクラウド構成を実現しやすい環境が整っています。

AWSからOCIへ移行する企業が増えている理由

近年、AWSからOCIへの移行を検討する企業が増加しています。この傾向の背景には、コストとパフォーマンスの両面でのメリットがあります。

移行事例から見るコスト削減効果

クラウド環境においてMySQLを運用する際、オンプレミスや他クラウドからの移行によるコスト削減効果が多く報告されています。特に、データベース処理負荷の高いワークロードにおいては、最適化されたインフラ環境に移行することで、20%~50%のクラウドコスト削減が実現されている事例があります。

出典:Procom Achieves 25% Performance Boost and 25% Cost Reduction|Oracle公式ページShanrohi Cuts Server Costs by 50%,Boosts Performance|Oracle公式ページ

OCI MySQL HeatWaveのようなサービスでは、インメモリ分析エンジンによる高速処理に加え、運用の簡素化や高いスケーラビリティが評価されており、従来よりも処理性能を維持または向上させつつ、コストの最適化を図るユースケースが増えています。

オンプレからの段階的クラウド化が進む背景

多くの企業では、既存のオンプレミス環境を一度にクラウド化するのではなく、段階的な移行を選択しています。OCIの Exadata Cloud@Customer を使用すると、既存のオンプレ環境内に OCIの自動化・低レイテンシ・ガバナンス機能を備えたクラウド基盤を構築できます。また、既存のOracle Databaseライセンスをそのまま活用できるため、ライセンス面でのコスト最適化も可能です。

出典:Exadata Cloud@Customer

MySQL専門性を活かした構成最適化の工夫

OCIでは、MySQLワークロードに特化した最適化機能が豊富に提供されています。HeatWaveの「MySQL Autopilot」は、分析ワークロードの特性を機械学習で分析し、パフォーマンスとコストが最適になるようなノード数を推奨します。管理者はこの推奨に基づいてクラスターサイズを適切に調整することで、パフォーマンスとコスト効率の両立を図ることが可能です。

また、MySQL Shell for VS Codeなどの開発ツールや、Performance Hubによる詳細なパフォーマンス分析機能により、MySQL専門家のスキルを最大限に活かした運用が可能です。これらの機能により、データベース管理者の生産性向上とシステムパフォーマンスの継続的な改善を実現できます。

参考記事:MySQLで分析処理を高速化させる HeatWave を使ってみた

OCIとAWSどちらを選ぶべきか判断するためのチェックリスト

最適なクラウドプラットフォームの選択は、複数の要素を総合的に評価して決定する必要があります。

費用・機能・専門性を軸に比較する

クラウド上でMySQLを利用するにあたり、AWSとOCIはいずれも有力な選択肢です。それぞれ異なる特徴を持つため、導入コストや運用面、性能、サービスの幅などを比較することが重要です。

 

評価項目 AWS OCI
初期導入コスト 12ヶ月間のFree Tier(EC2、RDS等)あり Always Free(Compute/VDB/AUTONOMOUS DB等、期間無制限)あり
運用コスト 従量課金+Reserved Instances・Savings Plansで最大≈72%割引が可能(公式例) 低価格帯、ユニバーサルクレジットでシンプル料金体系
MySQL性能 Auroraは高可用性設計(最大15レプリカ、自動フェイルオーバー)あり HeatWaveによるOLTP/OLAP統合と高速分析機能あり

出典:AWS公式ページOCI公式ページ

費用面では、小規模な検証から始める場合にはAWSの12ヶ月無料枠が有効ですが、継続的な運用においてはOCIの低価格設定が有利になる場合が多くあります。年間100万円以上のクラウド利用が見込まれる場合は、OCIでの大幅なコスト削減の可能性を検討する価値があると考えられます。

ベンダーロックインを回避する視点を持つ

長期的なIT戦略において、特定のベンダーへの過度な依存はリスクとなる場合があります。AWSの豊富なマネージドサービスは魅力的ですが、AWS固有の機能を多用することで移行コストが高くなる可能性があります。

OCIは、オープンソースソフトウェアとオープンスタンダードを重視した設計により、他のプラットフォームとの互換性を保ちやすい特徴があります。Kubernetesベースのコンテナ環境や、標準的なAPIを使用したサービス連携により、将来的な選択肢の幅を確保できます。

導入後のサポート体制も評価軸に入れる

クラウド導入後の運用においては、技術サポートの質と迅速性が重要な要素となります。AWSは、豊富な技術文書とコミュニティフォーラムにより、多くの課題を自己解決できる環境が整っています。また、AWS Professional ServicesやAWSパートナーネットワークを通じて、専門的なサポートを受けることも可能です。

OCIでは、オラクルの長年にわたるエンタープライズサポートの経験を活かした高品質なサポートサービスを提供しています。特に、データベース関連の技術課題においては、MySQLやOracle Databaseの専門知識を持つエンジニアからの直接的なサポートを受けられる点が大きなメリットです。

まとめ

 

本記事では、OCIとAWSの機能、コスト、メリット・デメリットについて詳細に比較し、MySQL運用における最適な選択基準を解説しました。

  • OCIは、低コストとMySQL HeatWaveによる高性能な分析機能で優位性を発揮
  • AWSは、200以上の豊富なサービス群と世界中に展開されたインフラが強み
  • データベース中心の業務システムやOracle環境の延長にはOCIが適しており
  • 新規開発や多様なマネージドサービスを活用したクラウドネイティブな構成にはAWSが有効

特に、コストを重視する場合や既存Oracle資産を活かした移行を検討している場合はOCIを、
グローバル展開や多様なサービス連携を前提とする場合にはAWSを選ぶことがひとつの判断軸となります。

まずは、両プラットフォームの無料枠を活用してPoC環境で検証を行い、移行のメリットを可視化することが重要です。
そのうえで、最適なクラウド選定や移行計画の立案に迷った際は、ぜひ私たちスマートスタイルにご相談ください。
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