MySQLデータベースを運用している現場では、分析の遅さや、生成AIを活用したいがデータを外部に出せないというジレンマを抱えていることがあるかもしれません。HeatWave GenAIは、MySQL HeatWave上でLLMやベクトルストア、RAGを統合的に活用できる生成AI機能です。SQLインターフェースから利用しやすい点が特長ですが、利用するLLMや構成条件は選択するアーキテクチャによって異なります。
本記事では、HeatWave GenAIがどのような課題を解決し、どのような仕組みで動くのかを整理します。さらに、導入から運用までの流れや、意思決定を加速させるための活用戦略についても解説していきます。
HeatWave GenAIの概要
HeatWave GenAIは、MySQL HeatWave上でLLM・ベクトルストア・RAGを統合的に利用できる生成AI機能です。構成によってはインデータベースLLMを用いて、機密データを外部サービスへ出さずに生成AIを活用できます。
データベース内でLLMを動かす
一般的な生成AIの活用では、アプリケーションから外部のLLM APIへデータを送り、応答を受け取る流れが主流でした。しかし、この方法では機密データの外部送信というセキュリティ上の懸念や、データ転送によるレイテンシの増加といった問題が生じます。HeatWave GenAIでは、インデータベースLLMに加えてOCI Generative AI ServiceのLLMも利用でき、用途や要件に応じて生成AI機能を活用できます。SQLインターフェースから ML_GENERATE などのルーチンを呼び出して文章生成や質問応答を実行できます。なお、データを外部に出さずに処理できるかどうかは、利用するLLMの構成によります。
構成によって使い方と前提条件は変わる
HeatWave GenAI は、インデータベースLLMを利用する構成と、OCI Generative AI Service のLLMを利用する構成の両方に対応しています。前者は、構成によっては機密データを外部サービスへ送らずに利用しやすい点が特長です。一方、外部LLMを利用する構成では、利用可能なモデルの幅や機能面で選択肢が広がる場合があります。
また、HeatWave Lakehouse を利用するかどうかによっても、扱うデータ規模や構成条件は変わります。HeatWave基盤全体の拡張性と、HeatWave GenAI を実際に利用する際の条件は分けて確認することが重要です。
HeatWaveベクトルストアの役割
生成AIの回答精度を高めるうえで、関連する文書やナレッジをLLMに参照させるRAGという手法が注目されています。HeatWave GenAIでは、ドキュメントを埋め込みベクトルとしてMySQL HeatWave上に取り込み、ベクトルストアとして利用できます。オブジェクトストレージ上のドキュメントをSQLだけでエンベディングし、ベクトルストアに格納できるため、外部のベクトルDBを別途用意する必要がありません。非構造化データの管理と高速な類似検索を、一つの基盤で実現できる点が特徴といえます。
HeatWave ChatやNL_SQLで自然言語による検索・問い合わせを行う
HeatWave GenAIでは、自然言語によるデータ問い合わせやRAGベースの対話を実現する機能群が提供されています。
自然言語からSQLを生成してデータベースを問い合わせる機能は NL_SQL として提供されており、HeatWave Chat は主にベクトルストアに対するRAGベースの対話型検索・回答に利用されます。なお、NL_SQL は MySQL HeatWave 9.4.1 以降で利用できます。
これにより、SQLに不慣れな利用者でもデータや社内ナレッジにアクセスしやすくなります。また、コンテキストを維持した会話形式での問い合わせにも対応しているため、チャットボットのような使い方も可能です。
HeatWave GenAIの主な機能
HeatWave GenAIには、LLM実行やベクトル処理、セキュリティ連携といった複数の機能が統合されています。ここでは、それぞれの機能がどのような仕組みで動くのかを見ていきましょう。
データベース内LLMの特徴
HeatWave GenAIでは、ML_GENERATE や ML_GENERATE_TABLE といったSQLルーチンを通じてLLMを呼び出せます。文章生成や要約、質問応答などに活用でき、用途に応じてプロンプトを調整しながら利用できます。SQLルーチン経由で利用できるため、既存のSQLスキルを活かしながらPoCを進めやすい点も特徴です。自然言語の質問からSQLを生成してデータベースに問い合わせる機能は NL_SQL として提供されており、アクセス権のあるスキーマ、テーブル、カラムの情報を参照してSQLを生成します。なお、NL_SQL は MySQL HeatWave 9.4.1 以降で利用できます。
ベクトル処理とスケーラビリティの考え方
HeatWaveはインメモリ処理とスケールアウトアーキテクチャを備えており、分析・ベクトル処理を拡張しやすい基盤です。なお、HeatWave GenAI の利用は 32 ノード以下の MySQL HeatWave Cluster を持つ DB System が前提です。Lakehouse有効時の大規模構成と、HeatWave GenAI の利用条件は分けて理解しておく必要があります。
この基盤を活かし、ベクトル処理においても大量データに対する高速な類似検索や計算が可能です。大規模データを扱う環境でも、HeatWaveのスケールアウト基盤を活かしてRAGや類似検索を実装しやすい点は、分析業務を頻繁に行う組織にとってメリットになり得ます。
他サービスと連携してセキュリティを確保する
インデータベースLLMを利用する構成では、機密情報や個人情報を外部サービスへ送らずに生成AIを活用できるため、セキュリティ要件の厳しい企業にとって検討しやすい選択肢になり得ます。
MySQL HeatWaveでは、MySQL Enterprise由来のセキュリティ機能やデータマスキング機能を活用できます。そのため、既存の権限管理やガバナンスの考え方を踏まえながら導入を進めやすい構成です。ただし、自然言語でデータへアクセスする機能を使う場合は、ロール設計や機密データのマスキングを事前に整備しておくことが重要です。
HeatWave GenAIを導入するメリット
HeatWave GenAIを導入すると、具体的にどんな良いことがあるのか——そう感じている方も多いかもしれません。
ここでは、導入によって得られる主な利点をわかりやすく整理して紹介します。
従来のRAG実装では、別途ベクトルDBを用意し、ETL処理でデータを移動させ、アプリケーション側でLLM APIを呼び出すといった複数のステップが必要になることがあります。HeatWave GenAIでは、インデータベースのベクトルストアやSQLルーチンを活用できるため、別途ベクトルDBを構築したり、複雑なデータ連携を増やしたりせずに実装を進めやすく、開発工数やインフラ構築の負担を軽減しやすくなります。
インデータベースLLMを利用する構成では、機密データを外部サービスへ送らずに生成AIを活用できるため、セキュリティ審査やガバナンス対応を進めやすくなる場合があります。特に、機密情報や個人情報の取り扱いに厳しい要件がある環境では、この点が導入検討時の重要な判断材料になり得ます。
また、分析処理を担うHeatWaveエンジンと生成AI機能が同じ基盤に統合されているため、分析結果と生成AI機能を同一基盤上で連携させやすい点も特長です。トランザクション、分析、機械学習、GenAIをまたがる処理を分断しにくいため、データ活用の流れをシンプルにしやすくなります。
| 観点 | HeatWave GenAI | 外部LLM+専用ベクトルDB |
| データ移動 | 構成によってはDB内で完結しやすく、外部送信を抑えやすい | 構成によってはETLやAPI連携が必要 |
| 開発スキル | SQL中心で習得しやすい | 複数技術の組み合わせが必要 |
| RAGチューニング | 統合機能を活かして始めやすい一方、細かな設計自由度は構成次第 | 自由度が高い一方、設計や運用は複雑になりやすい |
| 運用負荷 | マネージド環境に統合しやすい | 構成によっては各コンポーネントの監視や運用が必要 |
上記の比較から、短期間でPoCを進めたい組織や、統合基盤で運用を簡素化したい場合には、HeatWave GenAIは有力な選択肢になり得ます。一方で、RAGの構成や周辺コンポーネントを細かく設計・最適化したい場合は、外部サービスを組み合わせる構成も選択肢になります。
HeatWave GenAIの導入と運用
「実際に導入するとなると、どんな手順で進めればいいのだろう?」と気になっている方も多いでしょう。
ここからは、HeatWave GenAIを運用する際の流れや、押さえておきたい注意点を初心者の方にもわかりやすく解説していきます。
導入前に確認すべき項目
導入を検討する段階では、まず既存のMySQLワークロードや周辺構成をMySQL HeatWaveへ移行・接続できるかを確認し、必要な構成やストレージ容量を見積もっておくことが重要です。既存環境との互換性を事前に検証しておくことで、導入後のトラブルを減らしやすくなります。加えて、生成AIで扱うドキュメントの量や更新頻度も把握しておくと、ベクトルストアの設計がスムーズに進むでしょう。
RAGを構築してベクトル化を実行する
RAGパイプラインを構築する際は、Object Storage に格納したファイルやフォルダを対象に、埋め込み生成とベクトルストアへのロードを進めます。HeatWave GenAIでは、Object Storage上の文書を取り込み、埋め込み生成とベクトルストアへのロードをSQLルーチン経由で実行できます。
回答品質を高めるには、ドキュメントの前処理や分割設計を工夫することが重要です。
HeatWave GenAI の VECTOR_STORE_LOAD では、チャンク分割についてカスタマイズ可能なパラメータが用意されています。なお、chunking パラメータは MySQL 9.5.0 以降で利用できるため、実際の利用時は利用中の MySQL HeatWave バージョンのドキュメントを確認してください。
運用でモデルとデータを継続的に監視する
運用フェーズに入ったら、LLMの回答精度やベクトル検索のヒット率を定期的に確認することが大切です。RAGの品質はドキュメントの構造や前処理品質に大きく依存するため、ナレッジベースが更新されたタイミングで、対象ファイルを再取り込みしてベクトルストアへ反映する運用ルールを設けておくと効果的です。ハルシネーションのリスクを抑えるには、関連文書の取得精度とプロンプト設計の両面から継続的に見直す姿勢が求められます。
コストとパフォーマンスを最適化する
HeatWave は構成や利用リソースに応じてコストが変わるため、分析負荷に応じて適切な shape やクラスタ構成を選びながらコストを管理することが重要です。現在の MySQL HeatWave Service では、ECPUシェイプが標準であり、OCPUシェイプは非推奨です。コスト最適化は可能ですが、HeatWave GenAIの利用にはLakehouse有効化やノード数上限などの前提条件があるため、その範囲内で構成を調整する必要があります。
パフォーマンス監視とコスト監視を組み合わせ、過剰なリソースを抱え込まないようにすることが、長期的な運用負担の軽減につながります。HeatWave ではクラスタメトリクスを用いた監視やアラーム設定も可能です。
HeatWave GenAIの検証・導入をスムーズに進めるには
HeatWave GenAIは、LLMやベクトルストア、RAGを統合的に活用できる一方で、
「自社データで何ができるのか」
「どこまでをPoCで確認すべきか」
「既存のMySQL環境や運用とどうつなげるか」
といった論点を事前に整理しておくことが重要です。
株式会社パソナデータ&デザインでは、こうした検討段階から、MySQL HeatWaveのPoC支援を通じて導入をサポートしています。
現状の課題整理から、検証方針の設計、必要な構成の検討、PoCの実施まで、段階に応じて支援します。
「HeatWave GenAIに関心はあるが、何から確認すべきか分からない」
「自社のデータや業務に適用できるか見極めたい」
といった段階でもご相談いただけます。
まずは、MySQL HeatWave / HeatWave GenAI の活用可能性やPoCの進め方について、お気軽にお問い合わせください。
まとめ
HeatWave GenAIは、SQLインターフェースからLLMやベクトルストア、RAGを活用できる生成AI機能として、意思決定の加速に貢献する可能性があります。導入や運用の進め方を理解したうえで、自社の課題に合うかどうかを検討してみてください。


